前回の記事ではゼロ年代ファッションを盛り上げた国内のドメスティックブランドから、これからのヴィンテージウェア=「ニューヴィンテージ」に考えを巡らせていきました。
そういった過去の作品やデザインへの敬意は、インポートデザイナーズ・モードブランドでは、アーカイブを再評価する動きとして海外ではさらに早くから巻き起こっており、現在においてその評価軸は90年代からゼロ年代へ視点の変遷も進んでいるように感じます。ラグジュアリーブランドのお買取にも数多くの実績をもつトレファクスタイルでも、このような年代の新旧という時代性のみとらわれず、ブランドを評価する潮流に着目しています。
今なおトピックスとなるミウッチャプラダとラフシモンズの存在感
ラグジュアリーファッションにおける本年の大きなトピックスとして、ラフシモンズのプラダ入閣がセンセーショナルな話題を呼んでいます。
現在のプラダの地位を確立し今なお影響力を持つミウッチャプラダと、自身のブランドはもちろん参画した多くのブランドで存在感を放ち続けるラフシモンズ。
今や大ベテランと言える両者のタッグですが、年々熱を帯びつつあるヴィンテージデザイナーズ・アーカイブ観の再考にも、今後さらに一石を投じそうです。
「テックウェア」「スポーツ」への先見性を表現したミウッチャプラダの功績
ミウッチャプラダは非常に早い段階から工業用ナイロンとして使用されていた「ポコノ」という化繊生地をブランディングに取り入れ、ラグジュアリーブランドの中でも独自の変革を打ち出していました。
その創造性は90年代~ゼロ年代にかけてミウッチャが手掛けた初期miu miu/ミウミウのメンズラインや、「プラダ リネア・ロッサ(PRADA LINEA ROSSA)」通称:PRADA SPORT/プラダスポーツに凝縮されているという評も多く、プラダスポーツは2018年にはリブランディングにより復活を遂げるに至りました。
時代を先取るかのような先見性を持った当時のアイテムは、アーカイブとして現在リユースアイテムでも高い評価ができるものが数多く存在します。
“アーカイブ”という概念を打ち立てたラフシモンズの独創性
そのプラダとタッグを組むことになったラフシモンズも、ミウッチャと劣らずラグジュアリー・モードの旧来の価値観に先進的な気性を持ち込んだ一人。反戦やポリティカルなメッセージ性を伴った作品や、アート・カルチャーへの深い造詣とリスペクトを表現したアーティスティックなアイテムは、ラグジュアリーとストリートの垣根をいとも簡単に打ち壊し、近年の海外セレブレティを中心とするアーカイブ回帰の流れを巻き起こしました。
ラフシモンズ同様、マルタン・マルジェラやいわゆる「アントワープ6」と呼ばれるブランド群も90年代からコレクションを発表していますが、世界規模での流行と流通が巻き起こったのは実質ゼロ年代からということもあり、これらのブランドのゼロ年代初頭のアーカイブは、まさしく次代のニューヴィンテージ筆頭となる世代を越える作品たちを数多く有していると言えそうです。
モード界における革命となったエディ・スリマンの「Dior hommeーディオール・オム」
プラダやラフシモンズの90年代~ゼロ年代のアイテムへの評価は、一時代を経た現在において隔世的な熱狂を呼ぶこととなっていますが、ゼロ年代当時のラグジュアリー・モード界に進行形として”革命”とも言うような変革をもたらしたのが、エディ・スリマンが率いた「Dior homme/ディオールオム」でした。
クリスチャン・ディオールに請われメンズディレクターへと就任したのが世紀が変わろうとする2000年のこと。極端なほどに無駄を排した細身のルエットは、90年代のメンズモードの常識を覆すほどの服飾観を提示し、それは遠く日本のカジュアルウェアのシルエットトレンドにも「スキニー」という概念を浸透させるほどの影響力でした。
現在も熱狂的なフォロワーを擁することで知られており、在籍した2001~2007年・「エディ期」とも称される当時のディオールオムのアイテムはマスターピースとして高く評価されています。エディはサンローランのディレクターを経てファッションの表舞台から一度退きますが2018年からセリーヌのディレクターとしてカムバック。
ワイド&ストリートのテイストはラグジュアリーファッションでもここ数年の大まかなトレンド潮流となっていましたが、その反動としてスキニーでロックなシルエットへの揺り戻しを唱える声も出ており、エディが手掛けた過去のアイテムは今後もアーカイブ・ヴィンテージとしての価値を高めていく可能性を大いに秘めています。
ミウッチャプラダやラフシモンズ・エディスリマンの過去のクリエイトを見ると、現在のラグジュアリーファッションほど、ブランドのアイコンや記号性へのこだわりは薄く、ストリートとラグジュアリーが大きく接近している現代に見るようなブランディングはあまり見られないように感じます。
ブランドの軸を作り上げ、それを広げるということに注力したデザイナーとしての本質の部分が作品に根付いているからこそ、一つの時代を作り得たほどの熱量を持った洋服が生まれ、それが後世にも渡って評価を得ているのかもしれません。
現代のモードファッションでもトップランナーとして牽引を続ける彼らの最新のコレクションはもちろんですが、リユースという視点では近い将来のヴィンテージアイテムとして、彼らが過去に残した作品たちにも注目していきたいと思います。