単純な年代論のみに留まらない「ヴィンテージ」という解釈の拡大は、メンズファッションだけでなくレディースの分野でも急激な変化を見せています。元来、デザイナーが産み出す創造性や、時代特有の流行様式がより豊かに表現されているのは、おそらくメンズ以上とも感じるウィメンズのファッションシーン。
現在のファッションにも大きな影響を与えているであろうリアルヴィンテージ~90年代以降のニューヴィンテージ・デザイナーズアーカイブの一連の歴史は、ファッションの奥深さを感じる魅力に溢れています。
「ノスタルジック」&「ロマンティック」は消費されるアイコンへのアンチテーゼ
ランウェイを舞台とするトップファッションのトレンドワードにも上る「ノスタルジック」「ロマンティック」という潮流は、ヴィンテージが大きな影響を与えているという証左とも言えそうです。特に、80年代を代表するようなドレス感の強いフェミニンな様相が、現在のファッションにアップデートされながら取り入れられているのは興味深い動向です。
一例としては、近年大きな支持を得ることとなったブランドの一つであるCECILIE BAHNSEN/セシリーバンセン。デザイナーもヴィンテージやクチュールドレスからのインスピレーションを公言していますが、安直な”フェミニン”や”ロマンティック”という形容詞に留まらず、ドレスアップ&ドレスダウンを自在に行き来するような柔軟性は、ヴィンテージファッションを経由した感性からもたらされているのかもしれません。
ウクライナ刺繍やカギ編み・クロシェなど、ノスタルジックな古着が持つフォークロアな作品性の高さを取り入れるブランドも多く見られるようになっており、サステナブルという考え方においても、世代を越えるタイムレスな要素は今後も注目されるべきポイントになっています。
コロナ禍をきっかけにしたコテージコア—ファッションのリラックス回帰が後押しに
このようなファッションにおけるサステナブルな流れは、2020年のコロナ・パンデミックをきっかけとして皮肉にも大きく推し進められることとなり、結果としてヴィンテージウェアに対する関心も急拡大する要因になりました。
アフターコロナの時代に呼応するように昨年頃から注目されている「コテージコア」がトレンドの急先鋒として着目されるようになったのも、そういった部分が背景として感じられます。
英国を代表するライフスタイルブランドの老舗・ローラアシュレイを中心に、ホームドレスウェアがヴィンテージとしての評価を大きく高めていますが、衣服に対するストレスを排しリラックスを求める世相や、アンティークとして時代を経たモノに対しての価値基準は、現代のファッショントレンドにも変化を生み出しています。
思えば、国内のトレンドとしてもさかのぼること10年以上前、2000年代後半に「森ガール」の一大ブームがありましたが、現在の時代背景をもとにそれらが再びリンクしていることも、面白い時代の巡り合わせと言えそうです。
デザイナーズ・アーカイブのレトロ感と現行ファッションとの化学反応
ヴィンテージファッションの作品性や1点物の価値については、デザイナーズブランドのアーカイブにもヒントを得ることができるのはレディースにおいてもメンズと同様。メンズ・デザイナーズのアーカイブを取り巻く環境は、年々商業的な結びつきが強くなりつつあるように感じますが、ウィメンズファッションにおいてはより服の本質的なデザイン・創造性に着目される流れは大きく、今後価値を再発見される可能性を持つブランドやデザイナーも数多くありそうです。
シャネルやエルメスといったビッグブランドはもちろんですが、クチュールメゾンとしての背景を持つクリスチャン・ディオールやイヴ・サンローランのヴィンテージは、60~70年代以降のプレタポルテ=既製服の貴重な服飾史に触れることができることからも、世界的なコレクターが存在します。
また、近年では「レトロ」「サイケデリック」「オリエンタル」など、ヴィンテージウェアやアーカイブが持つ表現力が強みを発揮するようなトレンドムードも高揚してきています。レトロモードの代名詞としてその世界観を貫く『アナ・スイ』や、チャイニーズ・オリエンタルをハイファッションまで昇華させた『ヴィヴィアン・タム』、自由度の高いフレンチファッションの時代感覚を内包する『ソニア・リキエル』などは、ヴィンテージとして注目を高めそうなブランド。日本国内においては、いずれも”高級婦人服”といったイメージが先行しがちですが、創造性の高いブランディングは現在のファッションにもスパイスとなり得るアイテムが多くあります。
80年代以前の本格的なヴィンテージ年代品だけでなく、ニューヴィンテージと言える90’s~00’sの近年品でも、柔軟な視点で見ると独特な光を放つものが多いため、リユースの分野でも次代の注目株と言えるジャンルです。
「2020年」はファッションの分野においても、何十年後に振り返っても大きなターニングポイントだったと認識されることは間違いありません。しかし、一つの大波を越えることで静かに起きていた地殻変動が大きな揺れとなって価値観の変化を生み、現在ファッションとヴィンテージ・アーカイブの点と点が、線へと結びつきつつあるように感じます。
レディースファッションでも存在感を大きく高めているヴィンテージ。アンティークレベルの時代を越える名品から、色彩豊かなニューヴィンテージ年代まで・・・「〇〇年代」という固定観念にとらわれない古着の取り入れ方は、現在のファッションにさらに奥行きをもたらしてくれます。世代から世代へ—リユースによってそのバトンを受け継ぐことも、これからのファッションを楽しむきっかけの一つになればと思います。